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第8回 病院から在宅、そして地域まで~活躍の幅を広げる管理栄養士

管理栄養士は病院内でチームの一員として、給食業務から病棟業務、外来の栄養指導など多岐にわたる活動を展開しています。また超高齢社会の中では在宅で療養する高齢者への訪問指導や地域住民の健康を守るための地域活動などにも取り組んでいます。早くから在宅訪問を行ってきた社会福祉法人緑風会緑風荘病院栄養室の藤原恵子先生に、施設や地域における管理栄養士の役割を伺いました。

藤原恵子先生
社会福祉法人緑風会緑風荘病院栄養室主任
藤原恵子先生

給食管理からミールラウンドや栄養アセスメント、栄養指導まで幅広く活動

施設管理栄養士として日々、どのような業務に取り組んでいるのか教えてください。

当院は病院と介護老人保健施設が同じ敷地内にあり、私たち管理栄養士はその両方の栄養管理に関わっています。主な業務としては、給食業務、栄養管理、外来の栄養指導などがあり、それに加えて訪問栄養指導や地域活動なども随時行っています。私は病院と介護老人保健施設の栄養業務の責任者として全体を見ているので、若手の管理栄養士の教育や、給食に携わる調理師からの相談、厨房機器の管理なども日常的に行っています。

地域の病院ですので急性期の病院とは違って長く通院される人が多く、同じ患者さんが1年に何度か入院されることもよくあります。そのため、1年間毎日違う献立にすることに加え、週に1回はお楽しみ食といって趣向をこらしたメニューを提供するなど、患者さんが飽きないようにさまざまな工夫を凝らしています。例えば、夏は素麺やうな重、冬はクリスマスメニューケーキや恵方巻というように、季節感を大事にしたり、時にはハンバーガーやラーメンを提供したりすることも。病気で食事に制限がある人も工夫をすればいろいろなものが食べられることをわかっていただけたり、外食ができない高齢者の楽しみにつながったり、そういったプラスの面があると考えています。

給食以外の日常業務にはどのようなものがあるのでしょうか。

食事を提供するだけではなく、病棟で食べているところに伺う「ミールラウンド」を行っています。患者さんにお話を伺いながら食べ方や飲み込み方を確認し、何かあれば主治医と相談しながら食事の内容を検討します。

病棟では、栄養アセスメントや栄養指導も行います。入院時の栄養アセスメントで患者さんの栄養状態を評価し、その後も随時再評価を行います。必要に応じて主治医に相談しながら栄養素量を調整し、食欲がない人は少ない量で栄養価が上がるような工夫をします。また患者さん本人には、入院中や退院時に栄養指導で直接食事のお話をする機会があります。

栄養指導は外来でも行っています。糖尿病や心臓病、脂質異常症、肝臓病、胃潰瘍、貧血など幅広い病気の患者さんに対して行っているほか、最近では低栄養の相談も目立ちます。また、透析患者さんの栄養指導も日常業務の一つです。医師の指示で栄養指導をするだけではなく、日々自分で食事管理をするなかで出てきた悩みを相談したい、と自ら希望される患者さんも少なくありません。食事管理が不十分だと血液データに影響が出てしまうため、外食時の食べ方の工夫や加工品の調整の仕方を伝えることがあります。一方で、特に高齢者に多いのが、心配し過ぎてしまって必要以上に食事を制限してしまっているケースです。そのような人に対しては栄養不足に繋がってしまうため、安心して適正な量を食べていただけるようアドバイスをしています。

在宅では患者や家族の負担を軽減しながら、できることを一緒に考える

在宅訪問にはかなり早くから取り組んでいるとうかがいました。

1995年に在宅訪問を行ったのが最初です。食事療法が難しい糖尿病の患者さんがいたため自宅を訪問してみたところ、非常によく生活が見えて具体的なアドバイスができました。その結果、患者さんの理解が深まって血糖値を改善することができたのが、取り組みを始めるきっかけです。

当初はほぼボランティアのような状態で訪問していましたが、継続することで学会発表などにも繋がり、その後医療保険の中での訪問指導の事例が増えました。2000年に介護保険が始まってからは、介護認定の中で訪問指導を行うことが多くなっています。訪問している患者さんは糖尿病や腎臓病、摂食嚥下障害などに加えて、低栄養で褥瘡ができてしまったという相談や鼻腔経管栄養の患者さんなど多岐にわたります。

在宅ではどのような工夫をされているのでしょうか。

患者さんや家族の負担を軽減するために、さまざまな角度から提案をします。市販食材を使いながら栄養をとる工夫を伝えたり、購入するお弁当の選び方についてアドバイスをしたり、おやつで栄養がとれるような工夫をしたり、できることを一緒に考えていくというスタイルです。介護する側も高齢の場合は、遠くまで買い出しに行けないなどの制限もありますので、近所のスーパーやコンビニを把握しておき、どこで何が購入できるのかをお伝えすることもあります。

98歳独居の高齢者の褥瘡が改善、相談先がわからず悩んでいる患者も

在宅訪問で特に印象深い患者さんはいますか? 

98歳で一人暮らしの患者さんが印象に残っています。元々ベッド上で過ごす時間が長いため、足やかかとに圧力がかかりやすく褥瘡ができやすい状態でした。夏場に風邪をひいたのを機に食事量が低下して低栄養となり、圧力と低栄養の両方が原因で褥瘡が広がって私たちに訪問依頼が来ました。どうしても入院をしたくないと自宅での生活を望まれたため、ヘルパーやケアマネジャーと協力しながら、栄養状態がよくなるように食事を見直しました。

介護保険の関係でヘルパーの介助を受けて食事をとれるのは1日2回、それ以外のタイミングは自分で食事をとるのですが、本人はあまり歩いて移動ができないという難題がありました。そのため、自分で食べられるようベッドサイドに置いておく食品を検討したり、市販のものを使いながら栄養価が上がる工夫をしたり、主治医の先生と情報共有しながら往診時に訪問させていただいたり、多職種で試行錯誤し、2ヶ月程介入したことで入院することなく褥瘡も改善した事例です。

また、誤嚥性肺炎を繰り返す低栄養の90代女性のケースも印象的でした。息子さんが介護をしていてずっと栄養のことで困っていたにも関わらず、どこに相談すればよいかわからずに悩んでいたそうです。東京都栄養士会の栄養ケア・ステーションからの紹介で介入が始まりました。訪問が始まったとき、息子さんは「栄養が大切だということは理解しているのですが具体的にどうしてよいかわからず、訪問してくれる栄養士を何カ月も探し回っていました」といって本当に喜んでくれました。その後2年ほど継続して現在も通っており、栄養状態が改善してとてもよい状態で過ごしています。このような取り組みをぜひ多くの人に伝えてほしいという息子さんの後押しもあり、最近では訪問指導をしてみたいという管理栄養士を一緒に連れていき、見学してもらうということも行っています。

「介護予防大作戦」や「元気アップ食堂」など地域活動も盛んに実施

地域高齢者とはどのように関わっているのでしょうか。

当院は機能強化型認定栄養ケア・ステーションとなっていて、病院だけではなく地域住民に向けた栄養指導にも取り組んでいます。20年以上前から栄養士と院長が一緒に地域の市民講座なども行っています。近年では年に一度「介護予防大作戦」というイベントを地域の歯科医師、理学療法士、管理栄養士、ケアマネジャー、行政、社会協議会などが関わって開催しています。コロナ前は試食も準備し、約200人が集まる人気のイベントとして定着していました。今はそれができないため、事前に撮影した調理動画を流しながら講座を行うという手法をとっています。

他には、行政と連携をとって地域の料理教室を行ったり、地域の高齢者が集まる「地域サロン」というグループに栄養士が出向いて栄養講座を行ったりしています。最近では、地域住民から講座開催の希望が来るようになり、頼ってもらえることを嬉しく思っています。また、病院などに通っていない地域の人たちに食の場を提供する「元気アップ食堂」という事業も行っています。配食のお弁当を食べていただいている場を、管理栄養士と歯科医師、保健師がラウンドし、必要に応じてアドバイスをするという取り組みです。

米粉コンソーシアムの研究において先生が目指す成果を教えてください。

米粉ゼリーの活用を広め、嚥下調整食の調理に悩む人を減らしていきたいと考えています。 味については、お米の味がしておいしい、優しい味がする等の高評価をいただいているので、さらに食べ方の工夫や、おかずとの組み合わせ方などもこれから伝えていければと思います。

現在は主に在宅訪問指導の際に、介護をしている人にレシピを見て作ってもらったり意見をもらったりしています。調理の難易度や味に課題がみつかり、実際にレシピの改良に繋がるというケースもありました。また、高齢者対象の料理教室の場でも、レシピを見ながら作ってもらう取り組みを始めました。今は元気であっても何かあったときに慌てなくてすむよう、要介護になる前に嚥下調整食の知識をつけておくということは非常に大事だと考えています。