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第10回 米粉から嚥下食を作る時代へ 嚥下食の大きなパラダイムシフトの可能性

研究・開発にとどまらず、社会実装を目指してスタートし、当初の目標通り3年間で発売まで至った米粉ゼリー。炊いた米ではなく、米粉から嚥下食を作るのは嚥下食にとって大きなパラダイムシフトとなる可能性も秘めています。本研究の統括者である国立国際医療研究センター病院リハビリテーション科診療科長の藤谷順子先生に、改めて研究の意義と成果をうかがいました。

藤谷順子先生
国立国際医療研究センター
リハビリテーション科 医長

藤谷順子先生

研究・開発から発売までを目指し、一般企業も参加した研究チーム

改めて「米粉でやさしい嚥下食」コンソーシアムについて教えてください。

本研究は、農研機構の「生研支援センター」による委託研究事業の一環で、当コンソーシアムは受託者として研究を実施しています。単に基礎的な研究をするのではなく、社会実装、すなわち発売まで目指した研究を行っているのが特徴です。通常の厚労科研などの研究班との違いは、実際に社会実装できるように一般企業にもチームへ参加してもらっている点です。3年間で発売するところまでを目指した事業なので、今回のコンソーシアムには、図司穀粉とフードケアという2つの一般企業が入っています。

コンソーシアムに参加した2つの企業について教えてください。

図司穀粉は、米の粉を挽くことに関して、長い経験と知識のある企業です。米の粉の挽き方や、どのような挽き方をしたらどのような味わいの米粉ができるかということに関する深い知識が、今回なめらかな米粉ゼリーを作る上でたいへんに役立っています。また、図司穀粉は、米粉の材料、すなわち米を栽培している農家さんと繋がりがあるため、米粉の買い入れについても協力いただいています。特に高アミロース米粉というのは、比較的新しい品種で、日本でそれほど流通していないため、前年度から依頼しておく必要があるのです。そのような交渉も、図司穀粉を通して行っています。詳しくはこのインタビューシリーズの第4回をお読みください。

フードケアは、嚥下障害の人向けのさまざまな食品や機器を製造販売することを中心としたメーカーです。ご飯を炊いた後ミキサーにかける際に使う、酵素とゲル化剤がミックスされた製品「スベラカーゼ」を販売していて、主食であるご飯を炊いたものから変化させることに関して実績があります。また、施設の管理栄養士にその商品を販売しているため、嚥下障害の人のために主食を作る現場の苦労に関しても詳しい企業といえます。

1年目は研究者と図司穀粉だけでスタートし、これを製品にする企業を募集しました。説明会―申し込み-面接を経て、フードケアに決定したという経緯があります。そしてフードケアの尽力により、無事昨年9月にゼリーの米粉の発売に至りました。当初の目標通り3年間で発売にまで至ったということは、皆さんのご努力のおかげだと思っています。

多くの関心を集めるものの、普及には時間が必要

米粉ゼリーは市販化されましたが、普及にはもう少し時間がかかると聞いています。

秋以降、複数の学会でも紹介し、皆さんに興味を持っていただいているのですが、普及にはまだ時間がかかります。いくつかの理由がありますが、まず大きい施設では、ご飯を炊いてミキサーにかけ、そこに何らかのものを加えて嚥下食を作るということに元々慣れていて、それ自体が普通のことになってしまっています。そういった現場では、米粉ゼリーを取り入れるには作業手順を大幅に変えなければならず、導入までにそれなりに時間を要します。ゼリー状にするためにいったん冷やす、というのを手間に感じる、とのご意見もいただいています。ほかのおかず等に関しても「普通のものを作る-そして展開する」という手順が多いので、その意識の脱却に少しハードルがあるのかもしれません。まずは、臨時の少量需要(緊急入院や、嚥下内視鏡検査の際)からでもお試しいただき、便利であることを実感していただきたいです。冷やしてゼリー、だけではなく、常温での「プリンとしたコード2」の物性での利用もご検討いただきたいところです。

在宅の現場ではどうでしょうか。

在宅では、1人のために作るケースが多いですし、ミキサー利用へのハードルが高いので、この高アミロース米粉はたいへん適していると考えています。しかし、販路や規格の問題があります。販路については、フードケアはBtoBの企業で個人に販売するルートを持っていないため、個人あての通販会社でも販売できるよう現在準備を行い、取り扱いが2社から3社に増えたところです。規格については、現時点では1kg売りのみで、小袋がないことがネックです。自宅環境・また家庭での調理者は、「少量の粉を測る」ということに関してハードルが高いからです。小袋は包材のコストがかかるので、まず本品の売り上げがかなり増えてくれないと小袋の量産が難しいというような事情もあります。それから、高齢者は情報収集やネット通販の利用が得意とは限らないので、そこもハードルです。ぜひ、医療機関での利用→紹介、という形での普及ができてくればと思っています。

他にはどのようなシーンで利用できるのでしょうか。

他に利用しやすいのはグループホームやデイサービス、小規模多機能型施設など、少人数の食事を出すような施設です。米粉ゼリーは数人分だけ作る時に便利ですし、アレンジも容易です。ぜひそういったシーンで活用していただきたいです。ただし、管理栄養士が不在の施設も多いため、情報の普及にはまだまだ時間がかかるかもしれません。

炊いた米からではなく米粉から嚥下食を作るというのは、先生方のコンソーシアムだけの取り組みなのでしょうか。

一旦炊飯してからミキサーにかけるという以前からの手法が主流な中、米粉から嚥下調整食の主食を作るというのは、私たちが初めてではありません。現在4社が、お湯で溶けば米粉粥ができるものを販売しています。うち2社は、昨年の発売でしたので、昨年は、雑誌で「米粉の時代」という特集を組んでもらい、4社と私たち、それぞれが開発の苦労を語る座談会をしました。お米を炊いてから嚥下調整食に形を変えるのではなく、米粉から嚥下調整食を作る、一つの転換期だと思っています。

競合ではなく、協力して多くの人に喜ばれる嚥下食を

競合するのではなく、みんなで大きな流れを作っていこうと考えていらっしゃるのですね。

そうですね、競合とは思っていません。いずれにせよ、炊飯してからミキサーにかけるよりずっと便利なので、利用する皆さんの状況に合ったものを、使い分けてほしいと考えています。例えば、他社の製品はいわゆる「米粉ゼリーの素」なので、加熱の必要はなくポットのお湯のみで米粉ゼリーができるという手軽さがあります。一方、このコンソーシアムの高アミロース米粉は、それに比べれば作るのに手間がかかりますが、米粉100%ですので、味や風味、栄養価が異なり、低コストです。米粉100%ですので、お好み焼きにしたり、てんぷら粉の代わりにしたり、小麦粉のように使うこともできます。また、嚥下障害の人にとって、離水があると危険だといわれていますが、お粥を炊くような水分量でこの米粉を少量混ぜて炊くと、離水を防いだ軟飯を炊くこともできます。

最後に藤谷先生からメッセージをお願いします。

今回の3年間のコンソーシアムの期間が終わっても、引き続き嚥下障害の人や高齢者の食べやすい食事については、関心を払って活動していくつもりです。高アミロース米粉ゼリーは、主食として作りやすいだけではなく、色々なアレンジが楽しめますので、幅広くご利用いただければと思います。逆に言うと、どういう風に使えばよいか、皆さんそれぞれの使い方を発表していただけると嬉しいです。

スタッフより

同研究機関で研究補助として携わった山﨑さんからもメッセージをお願いします。

山﨑望さん
国立国際医療研究センター
リハビリテーション科

研究補助 管理栄養士
山﨑望さん

高アミロース米の米粉のゲル化特性のことは、私自身も本研究に参加して初めて知りました。米粉ゼリーは手触りがもっちりしている一方で、口へ入れるとべたつきやはりつきがなく、するっと口どけします。食べた瞬間になめらかに広がり、舌のすみずみまでゼリーが入り込むので、通常に炊いたご飯を噛んで食べるよりも素早くお米本来の味わいが感じられるのも、美味しさの強みです。

「米粉と水を加え混ぜて加熱する」という一見単純な調理方法ですが、全体が均一になるようヘラや泡だて器でうまく混ぜ合わせること、沸騰後も数分間だけは十分に火を通すことなど、いくつかのポイントがあります。しかし、いずれも手間のかかる作業ではありません。こうした調理特性とコツがつかめれば、米粉ゼリーはより美味しく手軽に作れてさまざまなメニューにも展開できますから、介護食だけに留まらず、料亭やレストランなど料理界にもぜひ広く知っていただきたいです。

私が以前に勤務していた認可保育園では、疾患による障害などで近隣の保育園では対応が難しい嚥下困難児も受け入れていました。もしも当時からこの高アミロース米の米粉のことを知っていれば、対応食のみならず離乳食やおやつ用食材等としても園の給食へ導入したであろうと考えられます。

本研究において研究課題の実施と受託窓口業務の両面から携わる中で、じつに多くの方々がこの研究に関わっていることを実感しています。コンソーシアムの内外問わず多くのご支援やご尽力をいただき、本研究が成り立っています。皆さんの思いや期待にも応えられるような、高アミロース米の米粉ゼリーのさらなる普及と活用の拡大を願っています。